上越市出身の児童文学作家 小川未明の文学精神を継承し、新しい時代にふさわしい創作児童文学作品を輩出する目的で平成3年に創設された小川未明文学賞は、今回で29回を迎えました。
この度、最終選考会が行われ、応募総数546編の中から受賞作が決まりました。たくさんのご応募をありがとうございました。
「屋根に上る」(長編部門)
かみや としこ(68歳 女性 愛知県在住)
賞金:100万円
記念品:「小川未明童話全集」(全16巻 別巻1 大空社)
大賞作品は株式会社 学研プラスから単行本で刊行されます。(令和3年秋刊行予定)
中学1年の工藤皓(こう)は、小さな塾を経営する両親のもとで素直で平凡な日々を送っている。ただ、入学した私立中学はたまたま合格したようで学力レベルが高く少し悩み始めている。彼は屋根に上がって空を眺めるのを楽しみにしている。ある日、亡くなった祖父が大工仕事を仕込んだという村田さんが現れて、屋根に上る梯子を修理してくれる。村田さんと話をしていくうちに親しみを覚える。その村田さんの元に通う小学校で同じクラスだった一樹と再会する。彼は大工になりたくて村田さんのところへ通っている。その一樹との出会いを通して、今まで知らなかった友達の一面を知り、また、村田さんの半生を知ることで、少しずつ自分を見つめ直していく。
このたびは名誉ある賞をいただき、ありがとうございました。
今後も書き続けて行くうえで、今回の受賞はなによりの励みとなりました。ただただ感謝です。
私は小川未明先生のこの言葉が大好きです。
「私は子供の時分を顧みて、その時分に感じたことが一番正しかったように思うのです」
今回の作も、子どもの頃よく屋根に上ってあれこれ思いをめぐらした思い出が、書くきっかけとなりました。時代は変わっても本当に大切なものは何か生きる喜びとは何か
見失いがちなのは、案外大人の方なのかもしれません。自分を正しつつ、書くことで子供たちに寄り添えたらと思います。
あらためて小川未明先生の精神を継承して創設されたこの文学賞に受賞できたことを、誇りに思います。
「さよならトルモリ王国」(長編部門)
ハンノタ ヒロノブ(48歳 男性 神奈川県在住)
賞金:20万円
親友トモの死を受け入れられず、生きているかのように振舞っていたルリ。二人して書いた物語の中の妖精プチが現れ、記憶喪失しているという。「困っている妖精を助けようと思わないのか」という妖精の問に、「まったく思わない」と答えるルリと、記憶の戻るお手伝いをしようとするトモ。二人は保育園時代からの大親友。二人は妖精の記憶を取り戻すために森へ何度も通うこととする。しっとりとした風、静けさ。木や草のにおいによって、少しずつプチの記憶は甦る。妖精プチは大きな森に建国されたトリモリ王国のプリンセスだったという。でも、三日も続いたあらしによってトリモリ大国は崩壊してしまったのだと。プチの記憶から語られる物語をどこかで聞いたようにルリは思い始める。やがてルリはトモの死を思い出す。
「妖精」を軸にすると決めたのは、あまりにもありふれているから。逆にチャレンジングだと思いました。応募原稿なのです。チャレンジしていなければおもしろくありません。
妖精の像をかためていくと、この子はカカトが金色の裸足ではなく、蔓を編んだブーツでもなく、チープなビーチサンダルをはいていました。背後に森がひろがり、口のへらない女の子と木陰にやさしげな友だちが立ちあらわれた。三者の輪郭をなぞって線を濃くしていけば、出来不出来はともかく物語は完成してくれます。
出来不出来の結果として賞をいただきました。ありがとうございます。
1次、2次の予選を経て最終選考に残った作品は8編です。受賞作以外の作品は次の6編です。
(注)数字は受付順です。敬称略。
今井恭子、小川英晴、小埜裕二、柏葉幸子、中島京子、宮川健郎、株式会社学研プラス絵本・読み物編集室長
(注)敬称略
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、関係者のみで開催します。
令和3年3月27日(土曜日) (予定)
小川未明文学館 市民ギャラリー