小川未明文学賞にご応募いただいた557編(短編作品301編、長編作品256編)について、令和5年2月14日(火曜日)に最終選考会を行い、下記のとおり大賞と優秀賞が決定しました。
作品名:「小さな僕のメロディ」(長編作品)
作者:有本 綾(ありもと あや)(44歳 女性 大阪府在住)
賞金:100万円
記念品:「小川未明童話全集」(全16巻 別巻1 大空社)、「限定本 眠い町」(DVD付、架空社)
大賞受賞作は単行本として株式会社Gakkenから令和5年11月頃に刊行予定。
小学6年生の海斗は、お母さんにゲーム機を取り上げられて、しょんぼりとした日々を過ごしていた。塾に行く途中に、駅でピアノを弾くおじさんに出会う。おじさんの弾くピアノに惹かれて、再び駅に出掛けて行き、再会する。おじさんは、「青柳さん」といい、近くでカフェを営んでいるという。海斗は、おじさんに誘われて、日曜日にカフェに遊びに行く。すると、おじさんの孫娘の花音と出会う。花音から、青柳さんは奥さんを亡くしてから、大好きだったピアノを手放したのだと耳にする。海斗は、自分もピアノを弾きたいと思いはじめ、青柳さんから習うことになる。バイオリンを弾く同じ小学6年生の花音に心惹かれながら、海斗はピアノとともに、ほかのこともいろいろと頑張ろうと努め始める。
息子が小さいころ、誕生日プレゼントにと息子が主人公の絵本を描いて贈りました。厚紙を張り合わせて、マジックペンと色鉛筆で描いた素朴な作品でした。それをとても喜んでくれたので、また次の年も描きました。その翌年には次男も登場するお話になりました。私がお話を作るのは、子どもたちが喜ぶ顔を見たい、というのがきっかけでした。今、小学生になった息子たちは、コロナで制限の多い毎日を送っています。そんな中で、子どもたちが自分の好きなことを見つけてのびのびと過ごせる日々を願って、お話を書こうと思い立ちました。主人公の海斗がピアノを通して様々な人と出会って変化していくように、人は何かや誰かと出会って少しずつ変わっていきます。そんな小さな変化こそが面白いし素晴らしい。子どもたちにはたくさんの出会いを通して変化を楽しみながら大きくなってほしいと思います(もちろん大人も)。
ずっと読者として物語に出会ってきた私が、このような素晴らしい賞をいただき、自分の物語を誰かに読んでもらう機会をいただけたこと、光栄に思います。このお話が誰かの小さな出会いの一つになることができたらうれしいです。
作品名:「それでええんや」(短編作品)
作者:藤江 洋一(ふじえ よういち)(67歳 男性 東京都在住)
賞金:20万円
記念品:「限定本 眠い町」(DVD付、架空社)
小学3年生の木村涼太のクラスに、東京から涼太とそっくりの坂本海斗が転校してくる。クラスのみんなは、あまりにもそっくりなので大騒ぎになる。涼太の友だちの前田君は、海斗がよく似ている理由をいくつも出してくる。そのたびに、涼太は親に聞いたり、海斗に質問したりして、大いに悩む。顔や姿はそっくりなのに、転校生の海斗は成績優秀でしかもスポーツ万能で、いつしかクラスの女の子からモテて人気者になっていく。何一つ海斗にかなうもののない涼太はひどく落ち込んでしまう。ところが、ある日、偶然にも、海斗はねこがとても苦手なことを知り、涼太は、新しい大きな気付きに出会う。さて、それは。
この度は小川未明文学賞という素晴らしい賞をいただき、思いがけない名誉に驚くとともに大変嬉しく思っています。
賞をいただいた作品をご覧になった方々の中には、「この作品はちょっとふざけ過ぎではないか」と思われる方もおられると思います。確かに表面的にはそんな印象を与えてしまう作品です。主人公の悩みも大人から見れば取るに足らない些細なことですが、子どもにとっては一大事です。その一大事をどうやって解決すればいいのか、主人公は真剣に模索し、答えを得ようとします。やがて、答えは思いがけないところから訪れます。その瞬間、主人公はひとつ成長したのです。子どもの頃の些細な悩みというのは大人になるとすっかり忘れてしまうか、どうでもよいことと思うようになってしまいますが、どんなに些細なことであっても、すべての子どもにとって初めて経験することは大事件であって、それを次から次に乗り越えて子どもは大人になっていくのです。
今回の作品は一文一文、楽しみながら書いたものです。読み手の子どもたちにもその楽しさが伝わるといいなと思っております。
1次、2次の予選を経て最終選考に残った受賞作以外(大賞・優秀賞受賞作を除く)の作品は次の6編です。
(注)番号は受付順です。敬称略。
今井恭子、小川英晴、小埜裕二、柏葉幸子、中島京子、宮川健郎、株式会社Gakken 児童読み物チーム 編集長
(注)敬称略