小川未明文学賞にご応募いただいた553編(短編作品309編、長編作品244編)について、令和6年2月15日(木曜日)に最終選考会を行い、下記のとおり大賞と優秀賞が決定しました。
作品名:「如月さんちの今日のツボ」(長編作品)
作者:古都 こいと(こと こいと)(東京都在住 鍼灸師)
賞金:100万円
記念品:「小川未明童話全集」(全16巻 別巻1 大空社)、「限定本 眠い町」(DVD付、架空社)
大賞受賞作は単行本として株式会社Gakkenから令和6年11月頃に刊行予定。
主人公の如月青葉(きさらぎ あおば)は、中学2年生の男子。鍼灸師の父親と弟の黄介、碧との4人暮らし。母親は5年前に交通事故で亡くなっている。男ばかりの4人の暮らしも、それなりに楽しく過ごしているが、いくつかの出来事の中で、青葉は家族のなかでのつながりに気付いていく。
青葉は学校で美村(よしむら)という女子にぶつかってしまい、けがをさせてしまう。彼女はピアノの発表会をまえにして、腱鞘炎で悩んでいることを知る。帰宅後に、父親に腱鞘炎に良く効くツボを教えてもらおうとするが、素直に聞けずにいる。実は青葉だけが父親と血がつながっていないことを、ぼんやりと知っている。弟たちとの関わりの中で、少しずつ家族のつながりに思い至る4つの物語。さて。
本作を書いていたときのことを思い出すうちに、頭の中に大きな岩が浮かんできました。その岩には、文章が思うように書けなかったときの苦しみや、完成しない恐怖、読者を傷つけるような台詞や文章になってはいないかという不安など、多くの悩みが刻まれていました。しかし、その岩を一つ一つ丁寧にどかしていくと、最後には「楽しかった」という言葉が刻まれた岩が見つかりました。その瞬間、「私はこの作品を書くことが楽しかったのだ。幸せだったのだ」と確信し、岩は溶けて光に変わりました。
「如月さんちの今日のツボ」の主人公、青葉の日常もまた、光ではなく岩に囲まれています。その岩を変えてくれたのは、壮大な出来事でも、ヒーローでもなく、家族のさりげない一言や、ささやかな出会い、そして「ツボ」です。本作が読者の皆さんの心に暖かな光を灯すことを願っています。最後に、この度は小川未明文学賞という名誉ある賞を授与していただき、心から感謝申し上げます。
作品名:「まよいねこトラと五万五十五歩」(短編作品)
作者:やす ふみえ(46歳 千葉県在住 大学教員)
賞金:20万円
記念品:「限定本 眠い町」(DVD付、架空社)
昼寝の邪魔をして挑発してきたカラスを追いかけているうちに、森深くに迷い込んでしまったトラねこのトラ。がけから落ちて足までひねってしまいます。満身創痍のトラがアラカシの木の下で休んでいると、アラカシの幹そっくりに擬態した尺取虫と出会います。その尺取虫はなぜか数を数えていました。不思議に思ったトラは、数を数える理由をたずねます。
はじめはトラをうっとうしそうにしていた尺取虫ですが、自分を食べようと襲って来た鳥をトラが撃退してくれたことから、トラをありがたく思うようになります。ふたりの間に芽生え始めた友情。そして変化する尺取虫のからだと数の秘密。さて、トラねこトラは、この森から自分の元のすみかまで帰ることができるのでしょうか。
モンシロチョウのサナギの中って、一体どうなっているのか気になったことはありませんか。サナギの中でからだは一度どろどろのクリーム状に溶けて、頭・胸・腹の区別がつかなくなるのだそうです。
そんな時、モンシロチョウの記憶はどうなっているんだろう
わたしたち人間よりも、ずっと不連続にからだを変化させる昆虫という生き物。よりダイナミックに「時間軸を変質」させるともいえる昆虫という生き物の不思議を潜在的に感じ取って、子どもたちは虫捕りに強く魅せられるのではないかと思ったりします。
この物語はそんな思いもベースにして、作り上げました。
日頃、大学で、教員志望の学生さんたちに生命科学の授業をしています。生物や自然の不思議に心を動かされる子どもたちに、こちらが感動させられます。
もしもわたしがオリジナリティを発揮できるのなら、そこにストーリーというパワフルな味付けをして、より大きな想像の世界へ誘うことはできないだろうか
素晴らしい研究者たちが次々と示してくれる新しい知見を、勝手に面白がって勝手に便乗です。これからも、わたしならではの悪あがきをしていきたいと思います。
この度はこのような素晴らしい賞を、誠にありがとうございました。
1次、2次の予選を経て最終選考に残った受賞作以外(大賞・優秀賞受賞作を除く)の作品は次の7編です。
(注)番号は受付順です。敬称略。
今井恭子、小川英晴、小埜裕二、柏葉幸子、中島京子、宮川健郎、株式会社Gakken 児童読み物チーム 編集長
(注)敬称略