昔々あったとさ。ある山に、じさとばさと住んでいたってね。じさまいちんち、山へ田打ちに行っていたってさ。そしたらムジナ出て来て、
「じさばさ田打ち、左もぎっちょ、右もぎっちょ、みんなみんな、ぎっちょぎっちょ」
と言ったとさ。じさ、ごうをにやして、今日こそ、ムジナのチクショウを殺して、ムジナ汁にして、食ってやろうと思ったとさ。
そして、くわでムジナを、カーンとはたいたってさ。そしたらムジナ、死んだまねしたってね。じさ、死んだと思って、それを担いで帰って来たって。そして、
「ばさま、ばさま、ムジナ取って来たすけ、ムジナ汁してくれや」
と言ったと。ところが、死んだふりしていたムジナは、じさのいないすきに、ばさを殺して、ばさ汁作ったって。ばさに化けたムジナは、じさに、
「じさ、じさ、ムジナ汁たべっしゃい」
といって、出してやったら、そんなこと知らんじさ、その汁わね、みんな食べたって。
翌日、じさまた、山へ田打ちに行ったら、ムジナが出て来て、
「じさ、じさ、ムジナ汁こうとて、ばさ汁くりゃった」
と言ったって。じさ、おかしいと思って、家へ帰って裏へ行ってみたら、ばさの骨が埋(うず)められてあったって。じさ、悲しくなって、裏の川のふちで泣いていたって。そこへ、裏山のサルがやって来て、
「じさ、じさ、どうして泣いてる」
と聞いたって。じさ、わけを話すと、サルが、
「じゃ、おれ敵(かたき)取ってやるわ」
と言って、山から木を切って来て、舟をこしらえていたって。そこへムジナがやって来て、
「サルどん、サルどん、なにやってる」
「舟作って魚取るんだ」
と言うと、ムジナは、
「おれにも舟つくってくれっ」
って、頼んだって。サルはムジナに、
「山からベトわね、ウントコサ持ってくりゃ、作ってやる」
といって、舟を作ってやったって。
サルは木の舟、ムジナはベトの舟に乗って、川の真ん中に出ると、
「杉舟スーイトセー、ベト舟ゴックリセー」と言いながら、サルが杉の舟を、ムジナのベト舟にぶつけたって。そしたら、ムジナの舟に穴があいて、水が入って来たって。
「杉舟スーイトセー、ベト舟ゴックリセー」
と、サルは、なんべんも、なんべんも、ぶつけているうちに、ベト舟が沈んでムジナは死んでしまったって。サルはじさに話したら、じさ、喜んだってさあ。いちごブラリ。
(語り手 渋柿浜 渡辺ハツイ 昭和59年 85歳)
(出典:昭和63年5月30日発行 大潟町史)