農作物への鳥獣被害が依然として深刻な状況にある中、今後の被害の発生・拡大防止に向けて、特に農作物被害の多い集落に、外部専門家による「集落環境診断」を導入し、集落単位での総合的な鳥獣被害対策について、現地の被害状況の把握や被害原因の分析から、対策の立案、対策の効果検証までの一連の取組です。
電気柵の設置や有害鳥獣捕獲だけでは、農作物被害の拡大を防げないことから、「集落環境診断」を実施し、地域ぐるみでの自発的な取り組みが展開され、地域における鳥獣対策の取り組みを支援するものです。
今後は全市的にこの取組を広めていきたいと考えています。令和3年度は、各集約先総合事務所の単位で次の4集落を対象に、鳥獣の出没しにくい環境づくりに向けた取り組みを進めてきました。
取組集落
1.集落環境診断・予備診断 (昼間3時間程度)
住民の方数名、行政担当者、専門家と一緒に現地を回り、集落の状況把握やコース設定を行います。
2. 集落勉強会 (夜2時間程度)
住民の方が正しい鳥獣被害対策の知識を共有してから事業を開始します。
3. 集落環境診断 (休日1日)
(午前) 集落診断についての講義(1時間)、 集落環境調査(2時間)
(午後) 集落地図作成(1.5時間)、 集落環境診断ワークショップ(1.5時間)、発表・講評(1時間)
4. 合意形成ワークショップ(平日数時間)
具体的に実施する対策を決めるワークショップを行います。
例)草刈りや枝打ち、収穫残渣の処分、電気柵の設置、ハンターの確保・育成、市との役割分担 など
5. 対策実行 集落で決めた対策を実践します。
6. 効果検証 今年の対策を振り返りながら、来年の対策を改めて検討します。
6月10日(木曜日)に金谷区滝寺集落において、最初の工程となる予備診断と勉強会を行いました。
予備診断では、町内会長はじめ8名の方が参加しました。講師とともに約2時間現地を歩き、汗を拭きながら、鳥獣被害が発生しやすい場所を確認したり、イノシシなどの「通り道」を確認しました。
夕方の勉強会では、集落の方など25名の皆さんが参加し、イノシシの生態や被害対策の考え方や具体的な対策方法について、学習しました。皆さん真剣な眼差しで取り組んでいました。
集落内での予備診断の様子、勉強会の様子
6月20日(日曜日)、集落の方など10名が参加し、丸1日かけて2つ目の工程となる現地調査とワークショップを行いました。
午前は講師から集落環境診断の趣旨などの説明を受け、午後は現地調査予備診断で決めたルートを歩きながら、動物の痕跡や対策上問題となるポイントを各自の地図にチェックしました。
その後、大きな地図に各自チェックした情報を書き込みながら情報共有を図りました。地図からみえる問題点の整理、対策の立案に向けて話し合いでは、自由なアイデアを出しながらの楽しい検討となりました。
「農道を横切る電気柵の配線は傷みやすいです。」 始める前はやや緊張感が。
この日のワークショップで出た対策のアイデアの数々。
7月27日(火曜日)、集落の方など12名が参加し、上記対策のアイデアを具体化するための、合意形成ワークショップを行い、みんなで決めた計画に基づいて、夏から秋にかけて対策を講じました。また、8月末には、これらの取組を集落全体に知ってもらうため、各世帯から協力してほし内容をまとめて、集落内に回覧しました。
11月27日(土曜日)、町内の役員、集落の方など10名が参加し、本年度に実施した対策について、反省や感想を出し合いながら、今後の対策や計画に活かすための効果検証を行いました。
今年の取組での苦労や感想の話し合い。「足跡はあるんだが、罠にかからないんだ…」
効果検証の結果は下記のとおり
課題 | 対策 | 令和3年度 取組結果 | 令和4年度 取組内容 |
---|---|---|---|
集落内での問題意識の共有できていない。 | 非農家の方も住宅地にイノシシが出没する際は危険があるので、まず地域の子供たちに対する啓発に向けて、学校教育とからめて情報の共有を図る。 | 毎年、飯小学校が総合学習を実施しており、年度内に学校授業で鳥獣被害の学習機会を設てもらうよう、対象学年・実施方法など、学校側と協議する。 | 左記学習を実施した後、今後の展開を改めて検討する。 |
田畑に誘引物(イノシシを引き付けるエサ)がある。 | 農家に対して、電気柵周辺の草刈りはしているか・電気柵のたるみはないか・常時通電しているか・水路の隙間はないか・ワイヤーの繋ぎ方はどうかなど再確認する。 |
農地所有者・耕作者は電気柵の正しい設置や管理方法をお互いに確認しながら実施した。 電気柵を設置した圃場には被害が見られなかったが、未設置圃場には被害が発生した。養鯉池の前の栗は、持ち主に連絡して、電気柵を設置するか子供会などで収穫する許可をもらう。 |
来年、電気柵を設置する際に、ワイヤー線の結び方など設置方法についての復習と情報共有を行う。 「池の下」の圃場に、電気柵を増設する。 イノシシを近づけないよう、取外し期間は極力、降雪期だけの短期間とする。 各世帯に対して、鳥獣被害を発見した場合には、日時・場所の報告を求める。 |
集落内に誘引物(イノシシを引き付けるエサ)がある。 | 養鯉池の前の栗は、持ち主に連絡して、電気柵を設置するか子供会などで収穫する許可をもらう。 | 養鯉池の果樹(栗)については、管理者に連絡し、収穫時期には毎日収穫または片付けをしていただいた結果、付近にイノシシやクマなどの痕跡はほとんどなかった。 |
柿・栗はイノシシを引き寄せるため、全世帯に対して、来年以降も収穫を徹底するとともに、不要果樹は伐採を検討してもらう。 |
ハクビシン、アライグマ対策として、所有者から、有刺鉄板を使用したり、小型箱罠を設置してもらう。被害が増えてきたら鳥獣被害対策実施隊に協力依頼する。 |
個々の世帯で収穫を行った。集落内における痕跡や被害の発生は確認されなかった。 |
箱罠の設置を継続するが、設置場所変更やエサのやり方について、猟友会の意見を参考に検討する。 わな設置場所の参考とするため、各世帯に対して、イノシシや被害を発見した場合には、日時・場所の報告を求める。 |
|
ヤブ(竹藪を含む)刈りができていない。 | 令和元年にイノシシが出没した際、非農家の方で整備した経緯あり。今後も協力を得ながら実施する。 | 竹藪を減らすことは、イノシシの隠れ場所を減らすことに繋がるので、竹を伐採してチップにできないか役員間で考えているところ。現在、方法等詳細について専門業者に相談している。 |
竹藪を減らすことは、イノシシの隠れ場所を減らすことに繋がり、結果として集落への出没も減少する。竹を有料で伐採・チップ化してくれる業者がいるので、参考までに伐採希望の有無の連絡を求める。 各世帯が、自分で処理する場合は、伐採材を適正に処理するよう求める。 |
6月3日(木曜日) 勉強会と予備診断(参加15名)
6月26日(土曜日) 本診断とワークショップ(参加15名)
7月21日(水曜日) 合意形成ワークショップ(参加14名)
11月27日(日曜日) 効果検証(参加9名)
効果検証の結果は下記のとおり
課題 | 対策 | 令和3年度 取組結果 | 令和4年度 取組内容 |
---|---|---|---|
捕獲対策 | 猟友会との協力事業に取り組み(鳥獣被害対策実施隊事業)個体を減らす。 | 鳥獣被害対策実施隊事業として箱わな2基を設置し、集落は見回りを担当した。今年度のイノシシ捕獲実績は1頭だった。 | 実施隊事業から移行し、猟友会の協力により箱わな2基を設置することとなっている。役割分担の詳細はこれから猟友会と打ち合わせによるが、集落は前年度と同じく、見回りを担当することとなる見込み。設置場所の移動も検討し、捕獲強化に取り組む。 |
集落まわりの環境整備 |
河川沿いの草刈りを集落で年1回実施し、藪がイノシシの潜む環境とならないようにする。 |
河川の草刈りは集落で年1回、6月に実施した。 | 継続して、河川の草刈りを集落で年1回実施する。 |
空き家がイノシシ等の潜む場所にならないよう管理する。 | 所有者が草刈りに来れない家は了承を得て集落共同で草刈りをすることとした。 | 集落内の空き家のうち、管理に困っている家については、所有者・管理者に連絡をとり、代わって集落で草刈りを行う。 | |
被害防止 | 電気柵の設置を進める。 | 令和2~3年で集落内の圃場に電気柵を設置し侵入対策を行った。 | 継続して、電気柵を設置し被害防止対策をする。 集落内全域の田に加え、R4は畑も囲み、農地と作物を守る。 |
6月5日(土曜日) 予備診断と勉強会(参加11名)
集落の全世帯が参加しました。
7月11日(日曜日) 本診断とワークショップ(参加8名)
7月26日(月曜日) 合意形成ワークショップ(参加9名)
11月28日(土曜日) 効果検証(参加4名)
効果検証の結果は下記のとおり
課題 | 対策 | 令和3年度 取組結果 | 令和4年度 取組内容 |
---|---|---|---|
電気柵の適正管理 | 集落外からくる地権者(または管理者)との管理の調整ができていないので、耕作者・地権者・被害者の3者で話し合いの場を持つ(作業実施・経費負担) | 定期的な草刈りを依頼し、管理することとなった。 | 継続して実施する。 |
電気柵の正しい管理方法が徹底していないので、電気柵の設置研修を行う。 |
電気柵の設置・撤去は、集落の共同作業として行っているので正しい設置方法の情報を共有する。 |
共同作業を継続実施していく。マニュアルの活用も検討。集落全員が10年以上作業しているベテランであるため、設置研修は行わない。 | |
捕獲の強化 | 狩猟免許の講習の受講枠が少なく受講できないため、市主催の講習会を要望する。 | 市に働きかけ、県主催の講習会の追加開催につながった。集落からも参加できた。 | 来年度以降も事前講習会の受講希望者多数の場合は、県に回数の増を要望する。 |
箱罠を増設しても見回りの負担が増えるので、箱罠に受発信機の設置を検討する。 | (今年は被害が少なく)箱罠の増設はしていないので、見回り負担の増もなく、受発信機の設置は現在のところ検討していない。 | 集落は、猟友会の箱罠、くくり罠の管理に引き続き協力していく。罠の設置位置は、山深くないため、受発信機の設置は今後の被害状況によって検討する。 | |
民家周辺の竹林からもイノシシが出没するため、森林・山村多面的機能発揮交付金を活用して、伐採を検討する。 |
(今年は被害が少なく)現在のところ検討していない。 |
今後の被害状況によって検討する。 |
6月19日(土曜日) 予備診断と勉強会(参加19名)
イノシシが潜んでいそうな場所を眺め 「あそこか」
7月18日(日曜日)本診断とワークショップ(参加19名)
7月30日(金曜日) 合意形成ワークショップ(参加19名)
11月3日(水曜日・文化の日) 効果検証(参加16名)
効果検証の結果は下記のとおり
課題 | 対策 | 令和3年度 取組結果 | 令和4年度 取組内容 |
---|---|---|---|
山ぎわの水田の鳥獣被害対策 | 電気柵の増設・延長を行う。 | 次年度に向けて、新たに電気柵を設置する場所を検討した。 |
令和4年度は、被害発生時に、中山間地域等直接支払交付金を活用し、随時導入する。 各世帯に対してイノシシ被害を確認した場合には、日時・場所の報告を求める。 圃場を囲むのではなく、イノシシが来る方向に集中して柵を設置するなどについても検討する。 |
電気柵が突破される |
設置研修と機能診断を現場で実施する(業者から指導を受ける) 設置現場のチェック(ワイヤーのつなぎ方を再確認する。) |
電気柵の業者から、設置した電気柵を現地で点検し、指導を受けた。 |
電気柵設置は8月中旬、撤収時期は11月上旬とし、未設置期間を短くする。 また、設置の際は事前に集落内で集まり、正しい設置・管理方法を再確認する機会を設ける。 |
電線がたるまないよう緊張具などの管理道具を購入・活用する。 | 今年度は、電気柵の経過年数が短く、特別な維持管理は不要だった。今後、年数が経過し、劣化してきた場合に、必要に応じて活用することとした。 | 今後劣化等により緊張が無くなった際には、緊張具を随時導入し、維持管理に努る。 | |
狩猟者の確保 |
捕獲技術の伝承を図る。(年配のベテランと若手が協力して活動するなど)・免許取得費用の負担軽減を図る。 |
狩猟者の免許取得に必要な費用や免許の更新に必要な費用を、町内で一部補助することとし、補助率や金額について今後検討する。 |
狩猟者確保ができたら、集落内での捕獲活動従事を猟友会に要請する。(集落内を優先した捕獲活動への配慮) |
集落全体で作業協力する。 |
狩猟者が確保できた場合は、集落で罠の設置や見回りに協力を依頼する。 |
各世帯に対して、イノシシを見かけた場合には、罠の設置場所の参考とするため、日時・場所の報告を求める。 |
|
人口減少 |
行政が主体となって移住、定住を促進する。 自然、観光を利用して他地域の人の関心を引き、人を呼び込む。 |
青柳集落の移住情報を市のホームページに掲載した。 | 情報に変更があった際は、随時更新する。 |
耕作地等の管理 |
山際に柵を設置したり、集落を囲う柵を設置する。 |
集落を囲む電気柵を一度に導入するのは難しいため、圃場単位の電気柵を優先して設置することした。 |
令和4年度は、被害発生時に、中山間地域等直接支払交付金を活用し、随時導入する。各世帯に対して、イノシシ被害を確認した場合には、日時・場所の報告を求める。 |
耕作放棄地をこれ以上増やさない。 | 生産組合で助け合いながら耕作放棄を防止した。 |
引き続き実施する。 |
|
緩衝帯を整備する。 | どこに緩衝滞を整備するかを今後検討する。緩衝帯の整備箇所が決定したら、草刈り等を協力して行うこととした。 |
引き続き検討する。 集落に対しては、緩衝帯の整備箇所が決まった後の草刈り等の協力を依頼する。 |
|
林道を再整備する。 |
狩猟者の確保及び緩衝滞の整備を優先する。 |
暑い日の現場作業や、関係者での長時間の話し合いなど苦労もあったと思いますが、集落や農家組合の役員をはじめ各集落の方からご協力いただき令和3年度集落環境診断を終了することができました。各集落から次のようなご感想をいただいたのでご紹介します。
各集落では、これまで被害が生じると個々に防御柵を設置するなどしていましたが、集落環境診断を通じて、農業者間でイノシシの生態や電気柵の適正管理など正しい対策に必要な意識と情報を共有が図られ、相互に協力して対策を行う意識の醸成が進んでいます。
また、回覧や集落の会合などを通じて集落内に取組の周知や協力依頼など積極的に発信しており、そのように地域課題を共有することで、今後の集落全体での継続的かつ自発的な取組に繋がることが期待されるところです。
鳥獣が出没しにくい環境づくりに向けた集落等の主体的な取組を支援するため、令和3年度に取り組んだ4集落へのサポート行うとともに、農作物被害が発生している集落を対象に「集落環境診断」を計画的に導入していきます。
市内広範囲にわたる地域ぐるみの自発的な鳥獣被害対策が進むよう、集落環境診断の全市的な導入をすすめ、鳥獣の出没しにくい環境の整備を図っていきます。