上越市鳥獣被害防止対策協議会では、捕獲活動における労力負担の軽減と、捕獲頭数増加に向けた効率的な捕獲活動の実現を目指して、ICTやドローン技術等を活用した4つの「スマート捕獲」について、令和4年度から2か年計画で実証を行い、導入や普及の可能性を探求します。
令和4年度~令和5年度
罠の見回りに要する時間の短縮効果を調査するための基礎データを収集するとともに、通信可能な範囲を調査します。
猟友会の協力の下、山中に設置する「くくり罠」に発信機を装着し、イノシシ等が捕獲された際に、この発信機が作動して手元の受信機に通知される仕組みの活用を通じて、罠の見回りに要した時間を計測及び記録するるとともに、通信可能な範囲を調査しました。
実施期間:令和4年8月1日(月曜日)から9月25日(日曜日)までの56日間
実施場所:大島区田麦地内、虫生岩戸地内、名立区名立大町地内
発信機は1か所当たり5台とし、市内3か所に延べ15台を設置
機器の特徴
くくり罠と連動した発信機の右側面にある突起(写真3:発信機の拡大写真で赤く丸で囲った部分)が引っ張られると、発信機が電波を発信し、受信機が受信します。また、どの発信機から受信したかが分かります。
写真1:受信機の写真
写真2:発信機の写真
写真3:発信機の拡大写真(赤く丸で囲った部分が引っ張られることで、電波を発信する。)
実証を行った3か所のうち、受信状況が良好だった2か所について検証したところ、見回り時間が1日1回当たり25分(62.5%)と10分(66.7%)それぞれ短縮することができ、この短縮された時間を金額に換算すると、1か所当たり平均15,624円の費用対効果となりました。この他に、見回りに要する移動距離の減少に伴う燃料費の削減効果も加わることとなります。なお、受信可能距離については、最短120メートル、最長でも1,640メートル程度までは到達を確認できました。
また、令和5年度において他社から試験運転として提供された別機種(親機1台、子機6台)を名立区地内で試用した際には、7,400メートル先の子機からの電波を自宅で受信でき、毎日行っていた見回りが4日に1回に軽減されたことから、1日1回当たり90分(75.0%)の短縮、金額に換算すると84,252円の費用対効果が得られました。
さらに、「見回りの負担軽減に有効だった」との実証協力者の声が多く、受発信システムは、わな従事者の負担軽減には有効なシステムであることを立証することができました。
なお、各社のシステムは費用面、受信距離が異なることから、導入地域の地形や必要な受信距離等を基に、導入機種を検討する必要があり、当地域においては地域の実情から受信距離にポイントを置き、令和5年度に試行した機種を採用することとし、令和6年度以降の導入に向けて検討を進めていきます。
より効果的なイノシシ等の有害鳥獣の捕獲と、はこ罠の見回りに要する回数及び時間の削減効果を調査するための基礎データを収集します。
猟友会の協力の下、「はこ罠」にトリガー装置(扉を閉める装置)を装着するとともに、付近にセンサーカメラを設置し、スマートフォンに送られてくる画像を見ながら、遠隔操作で扉を閉めることができる仕組みを活用して、罠の見回りに係る時間を計測及び記録するほか、より効率的な捕獲の方法について調査しました。
実施期間:令和4年7月19日(火曜日)から10月31日(月曜日)までの105日間、令和5年4月11日(火曜日)から9月30日(土曜日)までの173日間
実施場所:滝寺地内、吉川区顕法寺地内
トリガー装置(扉を閉める装置)を装着した「はこ罠」を市内2か所にそれぞれ1台を設置
機器の特徴
スマートフォンに送られてくる画像を見ながら、はこ罠の扉を止めているトリガー装置(写真4:トリガー装置の拡大写真で赤く丸で囲った部分)を遠隔で操作し、タイミングを見計らって扉を落とします。
写真1:遠隔操作システムの写真
写真2:カメラの設置写真
写真3:トリガー装置を装着した「はこ罠」の設置写真
写真4:トリガー装置の拡大写真(赤い丸のトリガー装置を遠隔で操作し、扉を落とします。)
令和4年度の実証期間中、スマートフォンとカメラを接続するソフトの不具合や、バッテリーから遠隔操作システムへの送電の不具合が発生し、効果検証に必要なデータが得られなかったことから、令和5年度においてシステムが正常に作動するよう、バッテリー(定格容量7.2Ahから36Ahへ)とコントローラー(5Aから10Aへ)を交換するとともに、一部実証場所を変更するなどし、再度、実証事業を行いましたが、機器類の不具合が多々発生し、導入の可否を判断するに必要なデータが得られませんでした。
このため、同様のシステムを開発・提供している他社の遠隔操作システムを改めて導入し、令和6年度において再度、効果検証を行い、令和7年度以降の導入の可能性を検討します。
冬場の「巻き狩り」に、ドローンを導入し、予めイノシシ等の生息や分布を把握するとともに、狩猟活動中にイノシシ等の逃走を追跡するほか、その情報をハンターに逐一伝達することによって効率的な捕獲活動が実現するか、またその有効性などを調査します。
(注)巻き狩りとは、多人数でイノシシやシカ等が生息する狩場を包囲し、獣を中に追い詰めて射取る大規模な狩猟法です。
猟友会が行う巻き狩りに、ドローンを導入し、イノシシ等の生息や分布を予め把握することによる効率性や、逃走の追跡や情報伝達の有効性について調査しました。
実施期間:令和5年1月14日(土曜日)から令和5年2 月18 日(土曜日)まで(延べ10 回)
実施場所:谷浜・桑取地区
次の二通りの方法により実証事業を行いました。
(1)巻き狩りと並行してドローンを飛行させながら個体の有無や位置を確認し、狩猟者に伝達する。
(2)巻き狩り予定箇所を事前にドローン飛行させ、個体の有無や位置を確認、その結果を基に、巻き狩りを実施する。
(1)の方法による実証では、ドローンが個体を発見できないケースのほか、ドローンが個体を発見しましたが、狩猟者へ位置情報を正確に伝えることができず、発見した個体を捕獲できなかったケースもありました。
(2)の方法では、個体を確認したエリアに絞り、効率的な巻き狩りを実施したことでニホンジカ4 頭の捕獲に成功しています。
また、山中を移動するイノシシやシカの追跡のみならず、生息エリアや寝屋・足跡など行動形態の発見にも有効性を発揮しました。
ドローンを活用した巻き狩りの実施写真
出猟前の準備状況
ドローンの飛行状況
ドローンからの画像データをモニターで監視
ドローンにより、巻き狩り予定箇所を事前に個体の有無や位置を確認、その結果を基に巻き狩りを行うことで、より効果的、効率的な捕獲を行うことができることが実証されました。
実証を行った猟友会や委託業者の感想から、ドローンを勢子代わりに使用する方法も新たな手段として検討していくこととします。
この実証事業を踏まえ、今後、上越市鳥獣被害防止対策協議会でドローンの操縦者育成や活用方法などの課題について検討しながら、令和6 年度以降の導入に向けて検討を進めていきます。
獣害対策を一層強化するため、新たに間伐材を有効活用した「緩衝帯整備(人とイノシシとの生息区域の棲み分け)」の実証を行います。
この「緩衝帯整備」については、今後市内各地で実施される森林経営管理制度による森林整備事業との連携を見据え、間伐材を利用した整備とともに、あわせて、雑草対策の労力軽減及びイノシシ等の出没抑制の効果を検証します。
実施期間:令和4年5月27日(金曜日)から令和5年9月30日(土曜日)までの492日間
実施場所:吉川区河沢地内
(1)センサーカメラの設置
令和4年度は5月27日(金曜日)、令和5年度は4月10日(月曜日)にセンサーカメラ7台を設置し、160メートル区間のイノシシ等の出没状況を24時間監視しました。
実施期間中にイノシシが25回、カモシカが3回の出没状況が撮影されています。
令和4年6月26日(日曜日)夜の画像
令和5年8月6日(日曜日)夜の画像
(2)緩衝帯の整備状況
下草刈りのみの区域の下草刈
チップ材の敷設
センサーカメラの画像を分析すると、イノシシは緩衝帯に沿った農道上を迂回しており、緩衝帯法面を横断し、侵入しているような形跡は見受けられないことから、緩衝帯整備によるイノシシ等の出没抑制については、一定の効果があることを確認しましたが、チップ材の敷設による雑草対策の労力軽減効果については、経過年数が1 年未満のため、令和6 年度以降も引き続き、防草効果と耐用年数を確認(実証継続)することとし、その確認結果と費用対効果を見た上で事業導入を検討します。