斜めから見た屈輪文堆朱香合(1枚目)と真上から見た屈輪文堆朱香合(2枚目)
重ね塗りされた漆の様子がよくわかる底部高台の破損個所。(3枚目)
浄興寺に伝来したこの香合は、径11.1センチメートル、高さ3.4センチメートルで、中国の元時代を中心とした13~14世紀に制作されたものと考えられています。寺伝では、後白河法皇(ごしらかわほうおう)の所有から法然(ほうねん)を経て親鸞へわたり、さらに弟子で浄興寺2世の善性(ぜんしょう)へ譲られ、代々、受け継がれてきました。
香合は、香などを入れる容器で、これは、堆朱(ついしゅ)と呼ばれる技法を用いて作られています。堆朱とは、朱漆をいく総にも塗り重ね、その漆の層に模様を彫り出す技法です。この香合の文様を注意してみると、表面の朱漆の下に緑色・黒色・黄色等の漆が幾重にも重なり、微妙な曲線と相まって、美しい色調を呈しています。また、底部高台を見ると一部破損している箇所がありますが、積層の様子がよくわかります。
堆朱は、中国では宋・元時代に多く流行し、わが国には室町時代に伝わったといわれています。また、この香合に施された文様は、蕨形(わらびがた)の連続した渦巻で、屈輪文(ぐりもん)と呼ばれるものです。
中国製の良質な彫漆(ちょうしつ)作品としてとらえられる本作は、中世から近世にかけて書院飾りの道具として至上の作と位置づけられてきた工芸品であるとともに、所蔵する浄興寺の隆盛時期を裏付けるものとして、貴重な文化財です。
昭和54年2月22日に上越市文化財に指定され、令和2年3月27日に新潟県文化財に指定されました。