吉川区の真言宗寺院報恩寺に伝わる銅造薬師如来懸仏
この懸仏は、吉川区山直海の報恩寺に伝わるもので、現在は住職を兼務する直江津の泉蔵院で保管されています。報恩寺は天平宝字2年(758年)に鑑真により開かれたと伝わる真言宗寺院で、もとは尾神岳山麓の神社「大神社」の別当寺院でもありました。この懸仏は、昭和27年に報恩寺境内の薬師堂取り壊しの際、偶然発見されたものと伝えられています。
直径約31センチメートル、厚さ約1.5センチメートルの鏡板に、薄い銅板からレリーフ状に鎚で打ち出された尊像と台座、光背が留められています。像高は、台座を含めて約19.5センチメートルです。本像は、左の手の平に薬壺をのせ、右手は施無畏(せむい)印を結び、蓮華の上に座った姿であらわされています。線刻された衣文や連弁は繊細で美しく、丸顔で大きな目鼻と小さな口のおっとりとした表情、ふくよかな体つきでゆったりと座る様子は、平安時代後期らしいおおらかな雰囲気をただよわせています。