平成29年4月に文化庁から日本遺産の認定を受けた「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間(北前船寄港地・船主集落)」に、上越市は平成30年5月24日に追加認定されました。(写真は、住吉神社(住吉町)に奉納されている船絵馬)
北前船(きたまえぶね)とは、江戸時代から明治時代にかけて、北海道・東北・北陸の日本海沿岸諸港と、下関・瀬戸内海を経由して大阪を往来する西回り航路の廻船(商船)のことです。日本経済を支える大動脈として、米や海産物、酒、衣類、紙、塩など多種多様な商品が運搬されていました。物資の輸送だけではなく、寄港地で仕入れたものを別の寄港地に販売しており「動く総合商社」と例えられています。
直江津(今町湊)は、室町時代に成立した日本最古の海洋法規集である「廻船式目(かいせんしきもく)」において、当時の日本で十を数えた大きな港を表わす三津七湊(さんしんしちそう)のうち七湊の一つに名を連ね、上杉謙信公の時代にはその財政を支える港として手厚く保護されるなど、北前船の就航以前から大きな後背地を持つ商業港として栄えていました。
北前船が就航した江戸時代には、高田藩の外港として、また信濃への玄関口として、各地の港から運ばれてきた塩や砂糖、茶、塩魚、染料である藍玉、焼き物、着物等を城下町高田や頸城郡内、信濃へ運び出すための受入港として、また、高田平野や周辺の山間部と信濃の産物である米や大豆、小豆、麦等の積出港としても賑わい、この地域の発展を支えました。
「日本遺産(Japan Heritage)」とは、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として文化庁が認定するものです。
ストーリーを語る上で欠かせない魅力溢れる有形や無形の様々な文化財群を、地域が主体となって総合的に整備・活用し、国内だけでなく海外へも戦略的に発信していくことにより、地域の活性化を図ることを目的としています。
世界遺産登録や文化財指定は、 いずれも登録・指定される文化財(文化遺産)の価値付けを行い、 保護を担保することを目的とするものです。一方で日本遺産は、既存の文化財の価値付けや保全のための新たな規制を図ることを目的としたものではなく、地域に点在する遺産を「面」として活用し、発信することで、 地域活性化を図ることを目的としている点に違いがあります。
日本海や瀬戸内海沿岸には、山を風景の一部に取り込む港町が点々とみられます。そこには、港に通じる小路が随所に走り、通りには広大な商家や豪壮な船主屋敷が建っています。また、社寺には奉納された船の絵馬や模型が残り、京など遠方に起源がある祭礼が行われ、節回しの似た民謡が唄われています。これらの港町は、荒波を越え、動く総合商社として巨万の富を生み、各地に繁栄をもたらした北前船の寄港地・船主集落で、時を重ねて彩られた異空間として今も人々を惹きつけてやみません。
北海道函館市・松前町・小樽市・石狩市、青森県鯵ヶ沢町・深浦町・ 野辺地町、秋田県秋田市・にかほ市・男鹿市・能代市・由利本荘市、山形県酒田市・鶴岡市、新潟県新潟市・長岡市・佐渡市・上越市・出雲崎町、富山県富山市・高岡市、石川県金沢市・加賀市・ 輪島市・小松市・白山市・志賀町、福井県敦賀市・南越前町・坂井市・小浜市、京都府宮津市、大阪府大阪市・泉佐野市、兵庫県神戸市・高砂市・新温泉町・赤穂市・洲本市・姫路市・たつの市、鳥取県鳥取市、島根県浜田市、岡山県倉敷市、広島県尾道市・呉市・竹原市、香川県多度津町
構成市町(48自治体)が加盟する北前船日本遺産推進協議会のホームページ(外部リンク)
北前船の往来によって育まれた港町の街並みや、一攫千金を夢見る一方で危険と常に隣り合わせた船乗りたちが航海の安全を祈った神社仏閣、そこに奉納された船絵馬など、北前船が運び、今に遺る文化財、そして、北前船の船乗りたちが遠方の港から伝えた祭礼や民謡などの民俗芸能に、当時の面影をしのぶことができます。
当市においても、北前船に由来する数多くの文化財、伝統が遺されています。
北前船船主の航海の目印とされ、海上安全の信仰対象とされてきた山。
北前船で栄えた風情が色濃く漂う湊町の町並み。北前船がもたらし笏谷石(しゃくだにいし)や御影石(みかげいし)等が町なかにみられる。
北前船で栄えた直江津の商工業を支えた明治期の銀行建物。
北前船船主が航海安全を祈願して寺社に奉納した船絵馬、船型模型等。(写真は、日野宮神社(中央5)に奉納されている船絵馬)
北前船の交易による繁栄の様子を今に伝える古文書・船箪笥(ふなだんす)・船手形等。(写真は、福永家文書)
阿波藍(あわあい)を運ぶ北前船の航海安全と繁栄を祈願し、阿波国(あわのくに)藍商人が寄進した石灯籠・手水鉢等。(写真は石灯籠)
北前船により運ばれた、備後国尾道(びんごのくにおのみち)石工作の石灯籠。
北前船船頭や直江津の廻船業者(かいせんぎょうしゃ)等、町衆の信仰を集めた神社。尾道石工作の鳥居や筑前銘のある狛犬がある。
北前船は直江津に様々な生業を生み、その町衆に支えられた八坂神社の祭礼。神輿(みこし)は高田城下を巡行(じゅんこう)する。(写真は、八坂神社御饌米奉納の様子)
北前船の船乗りにより伝えられた民謡。原曲は、出羽国(でわのくに)の酒田節と伝えられる。